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2011年10月

2011年10月26日 (水)

菊花賞のレース回顧

牡馬クラシック最後の一冠、菊花賞。
皐月賞、日本ダービーを制したオルフェーヴルが優勝し、2005年ディープインパクト以来の三冠馬の誕生となりました。

騎手がレースにおいて最も重視しているのは『折り合い』。長丁場になればなるほど、この折り合いが大事になってくるのですが、菊花賞が行われる京都3000mのコースは、それが非常に難しいのです。
スタート地点が3コーナー手前にあるために、スタートしてすぐに長い下り坂に入らなければならず、さらに1周目スタンド前ではファンの大歓声が待ち受けています。この時点で、ほとんどの馬がハミを噛んで折り合いを欠いてしまいます。
スタートでゲートを出るということは、馬に対して「さぁ、走ろう」との合図。特に外枠に入った場合、騎手は若干出し気味に馬を動かすわけですから、馬は走る気が高揚します。しかも下り坂でスピードが出やすく、オーバーペースの恐れがある状況に加え、繊細で神経質な動物である馬が、興奮状態に陥ってしまう大歓声。これら厳しい条件の中を、騎手はいかに上手く調整しつつ進むことができるかどうかが、菊花賞を勝つためのポイントとなります。

オルフェーヴルも多少はハミを噛むところがありましたが、我慢して1周目の1コーナーに入る手前ではハミが抜け、とてもラクに走っていたように見えました。
菊花賞翌日、ラジオ番組や知人(関係者ではない競馬ファン)との会話で、オルフェーヴルのレースぶりについて「1周目のアソコ。掛かってたけど、よく持ち直したよね」「池添騎手がうまく抑えて、まさに人馬一体だった」という内容の会話が耳に入りましたが、京都3000mコースがどういうものかよく知っている関係者はもちろん、ファンの方にとっても普通ですよね。
あのコースで競馬をすれば、馬が行きたがるのは当たり前のこと。オルフェーヴルだけが掛かって、オルフェーヴルだけが我慢したのではありません。ほとんどの馬がそうであり、それを制御するのが騎手。人馬一体で当然なのです。
ただ、レースぶりに関して言えば、オルフェーヴルは別格。仕掛けどころで外から上がっていき、直線に入るときには前を行く馬を易々と捕らえて先頭に立ち、その後はもう独壇場。誰からも文句が出ない、堂々たる勝ちっぷり。三冠馬に相応しい、横綱相撲を見せてくれました。

また、池添騎手の精神力にも脱帽です。トライアルを勝ってから菊花賞のゲートに入るまでの間、彼はどれだけの重圧を感じていたのか。騎手にとって三冠というのは夢の夢、思いもよらないことで、元騎手の僕でさえ計り知れないほどの重さを感じています。
レースに勝つための展開やイメージを、何十回何百回も繰り返し頭に描いたのでは…。時には、負けてしまうパターンも浮かんできてしまい、いやな思いをする夜もあったのではないでしょうか。
菊花賞のゴールを1着で駆け抜けた瞬間は、ダービー制覇の時とはまた違う高揚感と喜び、そしてそれまで背負っていた、重い荷物から解き放たれた清々しさを感じたと思います。その直後に振り落とされて、すぐに疲れが押し寄せていたようでしたが(笑)。若い池添騎手とやんちゃなオルフェーヴル、完全無欠というよりも爽やかで微笑ましいこのコンビ、心から応援したくなりますね。

今回はオルフェーヴルの強さだけが際立つレース。勝利にケチをつけるつもりは毛頭ありませんが、他の馬があまり骨っぽく感じられなかったのも確かです。次走、ジャパンカップか有馬記念のどちらかに出走する可能性もあるでしょう。強い4歳世代、さらに百戦錬磨のベテラン世代と戦ったその時に初めて、三冠馬の真の輝きが見られるのではないかと思っています。

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2011年10月19日 (水)

秋華賞のレース回顧

スプリンターズSから始まる秋のG1シーズン。秋華賞を迎えると、その後は絶え間なくG1レースが行われるため、気分も高まりますね。
3歳牝馬が最後のタイトルを目指し出走する秋華賞。先週の日刊スポーツのコラムで、僕が注目馬としても取り上げたアヴェンチュラが優勝しました。「女王(エリンコート)も主役(ホエールキャプチャ)も完封」という見出しそのままに、完勝といえるほどの圧倒的な強さで最後の1冠をもぎ取りました。
7月末に復帰し、2連勝で札幌で行われた重賞・クイーンSを制した同馬。その2戦で手綱をとった池添騎手ですが、阪神JFからクラシックをともに戦い抜いてきた、しかも1番人気確実のホエールキャプチャというコンビがおり、今回は岩田騎手を鞍上に迎えての参戦。復帰後の2戦でアヴェンチュラの調子がかなり良いことを感じていたはずの池添騎手ですから、人気実力のあるホエールキャプチャとの間でとても悩んだことでしょう。

さて、アヴェンチュラの勝因のひとつとして、枠番が挙げられます。2枠4番に入り、絶好のスタートを決めて好位の3番手につけられたこと。それに、開幕2週目で馬場の良い内側を回ることができたのが良かったと思います。
そして、鞍上の岩田騎手の腕。この馬は前走のクイーンSで勝利したものの、3・4コーナーでソラを使い、騎乗した池添騎手が手綱をしごくシーンが見られました。岩田騎手は、レースビデオを何度も繰り返し観て、乗り方を研究したのだと思います。その結果が本番で見せた騎乗。レース翌日のスポーツ紙では、こぞって岩田騎手の早めの仕掛けを絶賛していました。
競馬において、追走しているときの騎手はあまりハミをかけず、馬をリズム良く走らせることに専念します。ハミをかけない、つまり馬を怒らせないようにするということ。岩田騎手はこれを逆手にとり、3~4コーナーあたりですでにハミをかけて準備をし、ソラを使わせないように馬を怒らせて直線に向かいました。その勢いが残っているうちに追い出し始めたため、早仕掛けに見えたのかもしれませんね。
もちろん早いことは早いのですが、3・4コーナーから追い始める、いわゆる一般的な早仕掛けとは違い、3・4コーナーの時点では馬を怒らせてグイグイと行く気にさせているだけであり、直線を向いて初めて解放してあげたわけです。3・4コーナーではハミなどをかけず、じっと脚を蓄えているのが普通なのですが、それでは勝てないと思ってこの作戦を実行した岩田騎手には脱帽です。逆に言えばアヴェンチュラが勝つためには、この戦法しかなかったのでしょうが、この秋華賞勝利は、作戦を練り実行に移した岩田騎手の頭脳と度胸によるものと言えるでしょう。

そして、1番人気に推されたホエールキャプチャは、僅かなコースロスが全体的に響いた格好で3着止まり。とはいえ、デビューから(4-3-3-0)という馬券圏内を外していない、その安定力は抜群です。『無冠の女王』という、あまり嬉しくないイメージの馬ですが、その地力の高さは誰もが知るところ。大きなレースを制するシーンが見られることを願っています。

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2011年10月12日 (水)

先週の重賞レース回顧 ~毎日王冠・京都大賞典~

秋のGⅠ戦線。古馬の王道と呼ばれるものは、『天皇賞・秋』『ジャパンカップ』そしてグランプリ『有馬記念』。これらを目指す実力馬たちが、いよいよ始動です。

先週は東京競馬場で毎日王冠、京都競馬場で京都大賞典が行われました。
毎日王冠といえば、僕が現役の頃は、まるでGⅠレースのような盛り上がりを見せました。サイレンススズカ、エルコンドルパサー、グラスワンダーが激突した、今も語り継がれる1998年毎日王冠。オグリキャップにバブルガムフェローなどなど、その時代を彩るスターホースがこのレースで名勝負を繰り広げました。
今年は11頭、京都大賞典の8頭とともに少々寂しい頭数となりましたが、それぞれにGⅠホースが出走し、なかなか見応えのある戦いが見られたのではないでしょうか。

毎日王冠は、単勝1番人気ダークシャドウが優勝。エプソムカップを制して以来の出走でしたが、馬体は順調そのもので、天皇賞に向けて弾みがつきました。
今回は好位から抜け出したエプソムカップとは違い、届くかどうか不安に感じるような位置からの差し切り勝ち。開幕週の競馬場はどこでもパンパンの高速馬場で、レースでは極端なハイペースにならない限り、前にいる方が有利となっています。
ところがダークシャドウは、4コーナーを回り直線に向いた時に、まだ後方2・3番手。そこから上がり3F32.7秒の脅威の鬼脚を使い、同厩舎のリアルインパクトを差し切り。好位追走はもちろん、今回のように控えても良い脚が使えることが分かったのは、レースの幅が広がったという点で収穫があったと思います。これは相当な強みで、鞍上の福永騎手は今から天皇賞での騎乗が楽しみなのではないでしょうか。
管理する堀調教師は、このレースで安田記念に続く重賞でのワンツーを決めました。人馬ともに好調、これからも注目していきたいですね。

そして、一方の京都大賞典は断トツ人気に応え、後藤騎手騎乗のローズキングダムが勝利。力強い走りで、着差以上に他馬との力の違いを見せつけました。
スローペースの中でも3番手できっちりと折り合って、直線を向いて抜け出すときには、余裕が感じられるほどの手応え。今回のような上がり勝負の展開は、ローズキングダムにとってはレースがしやすかったと思います。
ただし、この位置で競馬を進めた後藤騎手の判断の良さと、これまで培ってきた騎乗技術があってこその勝利。じつに好騎乗でしたね。この秋のGⅠ戦線では外国人騎手に乗り替わるとのことですが、後藤騎手が大舞台ではどんな競馬をするのか見てみたいものです。

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2011年10月 5日 (水)

スプリンターズSのレース回顧

先週は秋のGⅠレース第一弾、スプリンターズSが行われました。
注目は何と言ってもシンガポールの英雄・ロケットマンの走りでしょう。これまでの戦績は21戦17勝、2着4回と、一度も連対を外すことのない凄いものです。パドックでその馬体を見たときには、久しぶりに衝撃と高揚を感じました。

僕は2004年、カルストンライトオに騎乗しスプリンターズSを優勝。そして、その年の12月に香港のシャティン競馬場で開催される、香港スプリントに出走しました。結果は地元香港、無敗の最強馬サイレントウィットネスが優勝。デビューから13連勝(最終的に17連勝、その後も日本でスプリンターズSを勝利)と強さを見せつけられる形になりましたが、その時は悔しい気持ちより、素直に納得できるほどの力を感じました。

ロケットマンは、このサイレントウィットネスを初めて見たときと同じインパクト。サイレントウィットネスは最盛期の当時は570キロ前後の大型馬体、ロケットマンは今回486キロと体重差はあるものの、パンとした素晴らしいトモの張り、日本馬に比べてひと回りは大きく感じさせる力強さと威圧感、いかにも瞬発力がありそうな丸みのある馬体は短距離馬として最高の体型で、惚れ惚れと見入ってしまうほどでした。カルストンライトオも胴がギュッと詰まった良い体型で、天性の素晴らしいスピードを持っていましたが、例えるなら弾丸のようなそれとは違い、まるで大砲です。
もちろん断トツの1番人気で単勝1.5倍。しかし結果は4着と、生涯で初めて連対を外してしまい、関係者は落胆したことでしょう。敗因は、これまでとはレースぶりが違っていた点ではないかと思います。過去のレースでの走りをいくつか観ましたが、いずれも直線で早めに抜け出し、そこから他馬を引き離す完勝・楽勝。今回のスプリンターズSは、位置取りは良かったものの4コーナーから直線に向くときに上手く外に出してあげられなかったところがポイントでした。
このロケットマンの勝利パターンを防いだのが、3着に好走したエーシンヴァーゴウの鞍上、福永騎手です。ロケットマンを外に出さないように、上手に内に封じ込め、進路を与えませんでした。天才・福永洋一の息子に生まれ、若い頃より大きな期待とプレッシャーを背負いながらも、スタージョッキーとして活躍している福永騎手。大舞台でも全く怯むことのない、肝の据わった騎乗ぶりはさすがだと思います。前走・前々走と騎乗した田辺騎手に乗ってもらいたかった、という意見もチラホラ耳に入りますが、今回の結果だけを見れば、福永騎手だからこその好走だったと思います。

そして、優勝したのは今年ダービーを勝って、ノリにノッてる池添騎手騎乗のカレンチャン
勝因ですが、やはりこれも位置取りでしょう。短距離戦では比較的ハイペースになるのが常識で、前に行き過ぎたら最後の脚がなくなってしまうし、かといって後方からでは間に合わない。良い位置で脚を温存できるポジションにいたことが大きく、この夏の間、レースを使いながらどんどん力をつけてきたようで、かなりの進歩が見られます。
勝負事は『運』とか『ツキ』とか、目に見えない何かが後押ししてくれることも大切です。池添騎手の今年の活躍は、まさに運を味方につけています。運も実力のうち、見合う力があるからこその結果でしょう。この勢いがどこまで続くのか、彼が一流の騎手として羽ばたく姿を、今後も楽しみに見ています。

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